2023年と2032年のトップリスクウェビナーへのご質問とその回答

2023年3月2日「取締役会や経営者が見るトップリスクのグローバル調査~2023年と2032年のリスクの展望と対応~」

「取締役会や経営者が見るトップリスクのグローバル調査~2023年と2032年のリスクの展望と対応~」のウェビナー中に視聴者の皆様からいただいたご質問への回答をご紹介します。回答は、網羅的ではなく簡潔であることを意図しており、時間の経過とともに内容が古くなる可能性がございます。さらにご質問がある場合やサポートが必要な場合は、プロティビティ([email protected])まで、お問い合わせください。

質問:ESGの話がありましたが、日本企業として、リスク対応として念頭におかなければならないのは、どのようなリスクでしょうか。

回答:ESGに関連するリスクの代表的なものとしては、変化する法規制への対応、特に環境や人権の領域で見られる、ソフトローからハードローへの移行の流れに適切に対応できない、というリスクが挙げられます。リスク対応として、海外および日本における法制化の動きをタイムリーに捉えることはもちろん重要ですが、それだけではなく、自社の戦略やビジョンをふまえて対応の重点をどこに置くか、組織横断的な対応や外部のサプライヤーまで含めた対応がすみやかに進められる体制・プロセスが整っているか、そして、適切な経営判断や情報開示に繋がる信頼性のあるデータが収集・分析できているかなど、さまざまなレイヤーでの検討と整備が必要です。


質問:内部監査部門長からのご回答に何か特徴的な結果はありましたか。

回答:内部監査部門長 (Chief Audit Executive) も、人材やテクノロジー、マクロ経済に関連するリスクが高いと評価していますが、内部監査部門長固有の回答項目として、「サイバーセキュリティ上の脅威」が2023年・2032年とも第4位に入りました。内部監査部門長は、会社がサイバーセキュリティをIT 部門のみの問題として捉えがちなことを懸念しているようです。また、「アウトソースや戦略的パートナー、ベンダーとの契約等への依存から生じるサードバーティリスク」が2023年第5位、2032年第6位に入りました。これらの分野に係るリスクを経営陣や取締役会に的確に伝えていくこともますます求められるように思います。

質問:先ほどの質問2に対して、本日の出席者何名が回答されたかご教示いただけますか。

回答:セミナー参加は188名のうち、122名様にご回答いただき、内訳は以下の割合でした。

D :出社・リモートのハイブリッド勤務を今後も継続する予定である【77.9%】
A :戦略達成に必要なスキルを持った人材が不足している【71.3%】
E :正社員以外の労働力や外部リソースをもっと活用することを検討している【41%】
H :DEIに組織として具体的に取り組んでいる【39.3%】
B :インフレ等を考慮し、従業員の報酬額の引き上げを検討している【35.2%】
F :従業員のリスキリングのために積極的に投資している【29.5%】
C :景気減速を懸念して、人員増には慎重になっている【19.7%】
G :トップ人材の引き留めのために積極的に投資している【9%】

質問:気候変動・自然災害のリスクが2023年ではAPACのみ、2032年でもAPAC、欧州のみで、米国では両年とも番外、全体でも「番外」となっていますが、これは貴社ではどのように解釈されていますか。(米国企業では、いまだに気候変動に多くの企業が鈍感または 開示のみで10大リスクには入らない等)

回答:「自然災害や気象変動の脅威」のリスクは、2023年で、APAC 第5位(リスクスコア:6.03)、欧州第16位(5.63)、米国第27位(5.17)であり、2032年では、APAC第10位(5.81)、欧州第8位(5.64)、米国23位(5.63)でした。

「自然災害や気象変動の脅威」のリスクの質問の原文は次のようになっています。

The rising threat associated with catastrophic natural disasters and weather phenomena (e.g., wildfires, floods, extreme heat/cold, cyclones/hurricanes/typhoons) may create significant operational challenges that threaten our assets, employees, and our ability to deliver products and services to our customers**

質問からもわかるように、自然災害や気象変動が、資産・従業員・顧客への製品やサービスの提供などへの脅威としてオペレーションに重要な課題をもたらす、となっています。

リスクスコアをみると、2023年では確かにAPACは重要な影響レベルで、米国は潜在的ではあるものの欧州に比べて低い値を示しています。しかしながら、2032年では、APACは潜在的な影響に低下し、欧州と米国はスコア自体ではそれほど変わらず、米国のスコアはかなり上がっています。

災害多発地域に多くの生産拠点を持つAPACや欧州に比べて米国は短期的にはリスク対応の必要性は他地域に比べて低いものの、長期的に対策を打つべきリスクとしては米国も10年後のリスク認識は高くなっていると考えられます。

オックスフォード大学とプロティビティが最近実施した別のグローバル調査では、広く分散した国や業種の250名の取締役および経営幹部が、今後10年間の企業の成功にとってESGの重要性増大を認める数が圧倒的に増えています。しかし、調査で取り上げられているすべてのESG要素において、北米の回答者はESGへの関与や取り組みが少ないと回答しています。この調査と見解については、こちらのペーパーで解説しています。

Risk Oversight 157:北米でESGの重要性は十分に理解されているか 

質問:今回紹介いただいた業種に弊社が該当しない部分もあるため、他業種でも結果が出ているものがあれば頂きたいです。

回答:英語版ですが、「ヘルスケア」「テクノロジー/メディア/通信」「エネルギー/ユーティリティ」の業種におけるトップリスクをまとめたインフォグラフィックをご紹介いたします。

Executive Perspectives on Top Risks in Healthcare
TMT Executive Perspectives on Top Risk
Executive Perspectives on Top Risks for the Energy & Utilities Industry

質問:ESGが直近のリスクに上がらなかった理由は何でしょうか。COPの進捗による影響でしょうか。

回答:今回の調査では、欧州のみ2032年のトップリスクに「気候変動・ESG関連の規制・開示の拡大」が上がっています。グローバルのトップリスクにこの項目がまだ入らないのは、欧州が気候変動・ESG関連の規制・開示を法制化したのに比べて、他の地域の規制はまだ検討の段階であることが影響しているでしょう。ただし、2023年に前年比で顕著に増加した戦略リスクの1つは、ESG課題に関連する期待の変化を含む、「ステークホルダーの期待に応える組織の能力」です。

ESGへの配慮は、企業が重視する項目により異なります。「E」については、化石燃料に大きく依存する産業においてトップリスクに入ってきています。全業種では、トップリスク入りしなくとも、業種によっては気候変動への懸念が大きいことがわかります。また、今年もESGの「S」に関連するリスクがトップリスクとして多くあがっています。人、職場、文化に関連するリスクは、全業種通してトップの懸念事項です。

Loading...