人事の未来を拓く創造的イノベーション~AIで実現する次世代の人事部門~

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技術革新や環境変化のスピードが速い現代では、企業の経営戦略・事業戦略も状況に応じて柔軟に変化させていくことが必要です。そしてその影響は、企業の最重要資源である「人材」を扱う人事部門にも及びます。取り巻く環境が急速に変化し、将来が不確定な状況の中では、人事部門の役割やあり方を改めて考えることが求められます。

創造的思考を持つ先見者であるアラン・ケイは次の言葉を残しています。

「未来を予測する最良の方法は、それを発明することである。」

この言葉を今の人事部の状況に置き換えると、先が見えない状況で自ら業務変革に挑戦することで、新しい人事のあり方を見出していくことが求められるということになります。そして、そのために有効な手段の一つとして、AI技術の活用があげられます。

現状では、多くの企業がAIを検証目的で試行している段階にあり、効果的な業務の変革にはまだ至っていない状況といえます。一方で、AI活用が進んでいる企業では、既にAIによる業務の効率化や高度化が実現されています。

AI活用のインパクト:AIによってもたらされる組織の変革は、これまでの働き方やビジネスのあり方を根本から変えるほどのインパクトを持つ可能性があります。変化を現実のものとするためには、人事部門もAIへの理解を深め、業務を高度化するための発想力や、それを実現するためのAI技術活用力を身につけていくことが必要になります。

AI活用の課題:人事部門のリーダーは、AI活用を推進していく中で、それが与える人事の業務プロセスや役割への影響を考慮し、将来起こり得る課題をいち早く把握して対応することが求められます。

AI活用の体制強化:社員のAI活用状況を把握し、不足しているスキル・知識があれば、それを強化するための計画を立てる必要があります。

AI活用を進めている企業では、すでに人事部門が人事評価に「AI活用度」を組み込む動きも出てきており、組織全体のAI推進に関して人事部門に期待される役割は増々高まっていくことが予測されます。

また、人事部門自身もAIを自らの業務へ活用することによって、従来の業務を効率化できるだけでなく、従来の常識を覆すような飛躍的な効果を得ることができるようになります。

AIスキルはテクニカルな要素だけでなく、思考力やコミュニケーション力といった能力も問われます。こうした能力を短期間で身につけることが、新たな人事課題となります。課題の解決に向け、AIを日常的に活用する中で実践的な能力を身に付けていく必要があるため、変化に抵抗感のある社員を抱える組織にとっては難題となります。一方、必要な能力を身に付けて積極的なAI活用を実現した人事部門では、人事業務の変革は劇的に進みます。

AI活用による人事業務の変革例 

  • 採用:面接のスケジューリングや募集要項の作成支援のような事務的業務の効率化や、候補者プロファイルと募集職務の内容のマッチング精度向上などへ、既にAI活用している企業もあります。最近では人でしかできないと考えられていた、面接やグループディスカッションの実施や、評価を動画分析やスコアリングで行うなどのより幅広いAI活用の取り組みも進んでいます。採用担当者や面接者の負荷軽減だけでなく、面接者の評価のバラツキの低減や、応募者の母数を増やすといった効果が期待できます。
  • 社員教育:職位などの能力要件に基づいて達成レベルを細分化し、その達成レベルに対して評価した情報を分析し、その結果を社員の能力評価としてフィードバックすることへのAI活用も考えられています。これにより、社員は自身の能力水準を客観的に認識し、自身の成長の確認をしつつ、さらなる成長に効果的な育成支援を得ることが可能となります。
  • 社員のキャリア支援:蓄積された社員のキャリアに関する相談内容や代表的なキャリア理論などをAIに学習させることで、社員一人ひとりの悩みに応じた問い合わせ回答や、スキルアップに向けた研修プランの提案をすることもAIで実現できます。これにより、社員へキャリアの選択肢や成長支援を個別に提示できるほか、社員が自律的にキャリアを描ける環境の整備につながっていきます。
  • 人事評価:AIで社員の業務目標に対する四半期ごとの進捗や評価データを分析することで人事評価に活用することもできます。また、360度フィードバックとして、同僚・上司・部下など様々な立場からの意見を統合・分析する際にもAIを活用し、過去の実績と照らし合わせながら、より活用しやすい結果のフィードバックにつながっていくと考えられています。
  • リテンション:勤怠情報や評価結果、スキル情報、キャリアの履歴、パルスチェックなどの人事データをAIにより分析することで、離職の可能性が高い社員を早い段階で把握でき、退職を防ぐ適切な対応が可能となります。
  • 社員対応の高度な自動化:人事関連情報や手続き方法などを学習させたAIチャットボットによって、人事関連業務に関わる社員からの質問に対して、タイムリーな回答や必要手続きの自動申請が実現できます。これにより、社員への対応を自動化するだけでなく、人事部門の業務負荷を低減することで、新たな役割への余力を生み出すことにつながっていきます。

以上のように、人事業務におけるAI活用は、既に採用・社員教育・キャリア支援・リテンション・社員対応などの幅広い領域で進んでおり、今後も人事業務へのAI技術の創造的活用が加速すると考えられます。AI活用を進める上で、人事部門として考慮すべき重要なポイントを以下で説明します。

AI活用における重要なポイント

  • AI活用戦略とプランの策定:人事部門のリーダーは、明確な目的と創造的な発想でAI活用戦略を策定する必要があります。戦略の実現に向けては、業務プロセスを分析してAI導入の効果が高い領域を特定し、PoCから段階的に導入を進め、成果を検証しながら改善を重ねていく必要があります。また、戦略実行に必要な人事部門の実現に向けたプランの検討も求められます。
  • AIを活用した新たな業務プロセス・人事部門の役割の定義:人事担当者は、自身の業務において、どうAIが活用できるかという創造的な視点が常に求められます。AIが定型的・反復的な業務を担うようになるにつれ、人事部門の役割はより高度で戦略的な方向へと変化し、会社の実態に即した新たな仕組みを提案する力や意思決定力といった人間ならではのスキルの重要性がますます高まっていくと考えられます。
  • AI戦略実行のために必要な体制の確保:人事部門のリーダーは、AIに精通した人材を採用するとともに、現在のチームのスキルを高めるための明確な育成計画を立てる必要があります。AIスキルの需要は非常に高く、効率的なスキルアップが重要となりますが、それにはAIに関する知識や経験だけでなく、人事担当者自身が将来必要となるスキルを見極めることが求められます。
  • 全社でのAI活用に向けた人事部門の役割の定義:AI時代において、企業が求める人材の定義は変化しており、人事部門は、AIなど新たに求められるスキル要件を踏まえて人材要件の再定義と育成体系のアップデートを進める必要があります。また、全社員のAIリテラシーの向上を支援しながら、変革を推進するリーダー人材の育成をリードすることが求められます。
  • AI活用のガバナンス:AIに過度に依存して人間の関与が不足している場合は、AIの結果の過信による好ましくない結果や、ハルシネーションなどによる思わぬトラブルを招く可能性があります。人事部門はこうしたリスクを常に考慮し、トラブルが発生しないようなガバナンスの仕組みを構築するとともに、問題が発生した際には迅速に対応できる体制を整備していくことが求められます。また、AIの活用方法によっては、社員が企業に対して抱く印象に悪影響を与える可能性があることも考慮する必要があります。

技術革新や環境変化のスピードが速い現代では、組織の経営戦略・事業戦略も状況に合わせて変化していきます。戦略の実現には人材がキーとなり、企業の最重要資源である「人材」を扱う人事部門に求められる期待値が高まっています。AIは組織全体の変革を加速させる大きな原動力となる存在です。だからこそ、人事部門も自らの手で未来を切り開く必要があるのではないでしょうか。人事部門が先陣を切って組織の未来を描き、実現していく推進者となることが期待されています。

(2025年11月17日)

※本ブログは以下のThe Protiviti Viewブログを翻訳し、一部日本向けに編集したものです。
What AI Is Doing For, and To, the Humans in the People Function - The Protiviti View

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