解説:ChatGPTにみるジェネレーティブAIの衝撃と今後の展望

~テクノロジーインサイトブログを翻訳してご紹介しています~

ここ数ヶ月、ビジネス界もテクノロジー界もChatGPTの誕生に沸いており、少なからぬリーダーがこのAIの進歩が自分の組織にとって何を意味するのかを考えています。本記事ではChatGPTに代表されるジェネレーティブAIの仕組みと現在地を紹介するとともに、今後数ヶ月の間にジェネレーティブAIがどのように変化していくのか、そしてその変化に対して企業はどのように準備を整えていけばよいのかを考察します。

ChatGPTとは?

  • ChatGPTはOpenAIの製品です。ジェネレーティブAIの一例です。
  • GPTとは、Generative Pre-Trained Transformerの略です。また、トランスフォーマーとは2017年にGoogleが研究論文で初めて紹介した深層学習モデルの一種です。それから5年、トランスフォーマーアーキテクチャは進化を遂げ、ChatGPTのような強力なモデルを生み出しました。
  • ChatGPTでは、受け入れ可能なトークン数が大幅に増加しました(GPT-3の2,049トークンに対して4,096トークン)。これにより、モデルは現在の会話の内容をより多く「記憶」し、会話中の以前の質問や回答の文脈を使用して、その後の応答を生成することができます。そしてトークンの上限数に達すると、ピクサー映画『ファインディング・ニモ』に登場する、忘れんぼうのドリーとの会話を彷彿させるような、脈絡のない会話にリセットされます。
  • ChatGPTは、これまでの同様のAIと比較してはるかに大きなデータセットで、はるかに多くのパラメータを使用して訓練されました。ChatGPTは1750億のパラメータで学習しており、GPT-2は15億(2019年)、GoogleのLaMBDAは1370億(2021年)、GoogleのBERTは3億(2018年)でした。これにより、ユーザーは幅広い内容について問い合わせることが可能になっています。
  • ChatGPTの会話型インターフェースは、その知識にアクセスするための優れた方法です。トークンの増加やパラメータの拡大に加えて、より広範な知識と組み合わせることでChatGPTを人間のようにふるまわせることが可能となります。

ChatGPTは確かに印象的で、その会話型インターフェースにより従来のAIより親しみやすく、理解しやすいものとなっています。しかし一方で、競合企業でも独自の生成AIモデルの開発が進んでいます。マイクロソフト、Amazon Web Service、グーグル、IBMなどの企業、また、それら企業のパートナーシップにより開発されている事例もあります。新しいジェネレーティブAIのリリース頻度、その学習データの範囲、学習させるパラメータの数、取り込めるトークンの数は今後も増え続けると予想されます。ジェネレーティブAIの分野では、当分の間、さらに多くの開発が行われ、急速に進化するでしょう。なお、GPT-2(2019年2月)からGPT-3(2020年5月)まで2年、ChatGPT(2022年11月)まで2年半、GPT-4(2023年3月)までわずか4ヶ月でした。

Generative AIの会話型AIアプリケーションへの活用

テキストベースのジェネレーティブAIは、会話型AIという幅広い分野の中で重要なコンポーネントと考えることができます。会話型AIのビジネス利用は、すでに数年前から、ヘルプデスクやサービスデスク業務において進んでいます。自然言語処理(NLP)解釈レイヤーは、何よりもまずリクエストの内容を理解するという意味で、すべての会話型AIの基礎と位置付けられます。会話型AIの企業向けアプリケーションはその回答にあたって蓄積された回答群や、指定された情報リソースを検索して生成された結果のいずれかを活用しています。そして、知識ベースとしてはFAQのリポジトリ(あらかじめ定義された回答を生成する)や、企業の情報システム(引用された回答を生成する)を使用します。

会話アプリケーションにジェネレーティブAIを導入した場合、個別企業の情報のソースを含む回答を提供することは現状不可能です。大規模な言語モデルの生成機能の本質は情報群から情報をまとめ、再構築することで新規の回答を生み出すことです。企業向け仕様では、回答の妥当性を確認するために情報のソースを引用しなければならないことが不可欠な場合が多いため、このような問題が生じます。

また、現在のジェネレーティブAIの重要な課題として、真実を理解できていない点が挙げられます。ただしそれは、事実と虚偽の両方を認識しているだけであり、「嘘つき」ではありません。現在の会話の文脈、与えられたプロンプト、学習させたデータセットに基づいて最も可能性の高い反応を予測するように最適化されているため、真実性には無頓着なのです。現在の生成AIは、プロンプトに従って情報を提供するため、ユーザーの質問によってモデルが誤った情報を生成する可能性があります。現在のレスポンスに関するあらゆるルールや制限は、モデル構成自体の外側に付加的な安全装置として組み込まれています。

現時点でも、ChatGPTはクリエイティブな場面で多く活用されています。しかし、近い将来、ChatGPTのような生成型AIが企業の情報システムのような蓄積された知識データベースから回答を引き出せるようになり、課題に対処できるようになればより多くの組織が生成型AIをさまざまな戦略や競争の取り組みに適用できるようになるでしょう。

リーダーたちはこの事態に備えて今日から準備を始めることができます。ニュースを追っていればどれほど目まぐるしく進展しているかを体感している方もいるかもしれません。2022年11月、ChatGPTはウェブベースのインターフェースを介してのみアクセスできました。ChatGPTの提供元であるOpenAIは、2023年3月までに、開発者がChatGPTをアプリケーションに組み込むためのアプリケーションプログラミングインターフェース(API)であるGPT3.5 Turboを提供すると発表しました(3月1日にリリースを発表)。APIが利用できるようになったからといって、ChatGPTがその回答において個別企業のソースを引用できないことが解消されるわけではありませんが、ジェネレーティブAIの能力が急速に進歩していることを示すものです。企業のリーダーは、今日のジェネレーティブAIの進歩が、明日のビジネスモデルやプロセスにどのように関係してくるかを考える必要があります。

 準備のために必要なこと

すでにジェネレーティブAIの経験を積んでいる組織は、ジェネレーティブAIの次の大きな展開まで半年を切っていると考えられている中では、同業他社よりも有利な立場にあると言えます。このような動向において、組織はどのようにして優位性を確保、あるいは維持することができるのでしょうか。「次は何だ?」という大きな問いに備えるという原則は、ジェネレーティブAIに限られたことではありません。

実験的に試してみることを行わずに新しい技術を深く体験的に理解することは非常に困難です。リーダーは、こうしたAI技術の開発を見極め、評価するプロセスや、実験をサポートするためのインフラや環境を早急に整備する必要があります。

イノベーションに俊敏に対応することとは、すなわち、小さく始めて、手を動かしながら学ぶことです。市場におけるイノベーションを追跡、把握し、AIの進歩に合わせて自社のビジネスや競争戦略を変えていく必要があります。

このような進歩を把握し、それに応じて実験するために、小規模なクロスファンクショナルチームを設立することが有用です。AIアプリケーションに使用されるアルゴリズム、データソース、学習方法については、企業での利用を検討するうえで非常に重要な考慮ポイントであるため、そのチームを教育する必要もあります。以下のハイレベルなアウトラインのような、ジェネレーティブな機能を含むソリューションを評価し、維持するための標準的で適応可能なAIガバナンスフレームワークを開発する必要もあります:

ChatGPTや他のジェネレーティブAIなどの革命的なテクノロジーが自社のビジネスや競争戦略にとって非常に大きな影響をもたらすことは考えるまでもないでしょう。リーダーは新しい可能性に常に注意を払うことで、新しいテクノロジーの機会を特定するための環境とインフラを構築し、利用可能となるまでに成熟したテクノロジーを取り入れる準備をする必要があります。

エマージングテクノロジーソリューションの詳細については、当社までお問い合わせください。

(2023年3月28日)

英語版ブログ「ChatGPT, the Rise of Generative AI and What’s Next」へのリンクはこちら

Loading...