グローバル内部監査基準を理解する(3回シリーズ)第1回: 内部監査のステークホルダーを巻き込んで適用に向けた基盤を構築する

グローバル内部監査基準の最終版が、2025年1月9日に施行されます。

なぜ重要なのか:最終版は、監査の品質を重視し、責任を明確化し、より詳しいガイダンスを提供して、ビジネスパートナーとしての内部監査の役割を強化しました。

なぜ今始めるのか:基準の改訂が求める協同して取り組むガバナンスを確立するために、利害関係者(ステークホルダー)と積極的にコミュニケーションを図り、議論に巻き込み、地ならしをすることで、不測の事態を回避し、変更のプロセスを円滑に進めることができます。

要点:建設的な討議の場を設定し、グローバル内部監査基準の内容や範囲、適用時期について合意できるようにすることが極めて重要です。

内部監査人協会(Institute of Internal Auditors)が公表したグローバル内部監査基準(以下「基準」)の最終改訂版が、2025年1月9日に施行されます。このブログシリーズでは、基準の主要な改訂内容を紹介した上で、改訂が内部監査部門に与える影響を検討し、適用に向け改訂点を取り入れるための実践的なガイダンスを提供します。さらに、基準への適合にとどまらず、特に内部監査の品質向上の機会についても検討します。

今回の基準の改訂における目的は?

内部監査人協会の国際内部監査基準審議会(以下「審議会」)による改訂の目標は、以下の通りです:

  • 公共セクターや小規模な組織に対する配慮を含め、責任と基準の要求事項を明確にする。
  • 基準の実施に当たって考慮すべき事項や基準に適合していることの証拠の例を追加することで、原則にとどまらないガイダンスを提供する。
  • 内部監査の質を高め、取締役会や経営陣にとって不可欠なビジネスパートナーとしての内部監査部門の役割を強化する。

審議会は基準の構成を改訂し、すべての要求事項を5つのドメインのいずれかに集約し、1つの枠組みの中で各ステークホルダーに方向性を示しました。しかしながら、内部監査部門へのガバナンスを確立し、維持する上で、内部監査部門長(CAE)と取締役会(多くの場合、監査委員会)、経営陣の間には重複し、また、共有する責任が存在します。今回の基準の改訂に際し、かかる責任関係をより明確に確立しようと試みています。

どこから始めるべきか?

当初の提案にあった多くの「must」要件(要求事項)は「should」要件(考慮すべき事項)に引き下げられましたが、さまざまな領域でかなり多くの変更があり、内部監査部門は今後11ヶ月の間に(訳者注:本ブログの日付2024年2月13日から施行日の2025年1月9日の期間)でこれらの変更に取り組む必要があります(従って、基準のレビューやギャップ分析を実施し、適用までの計画を策定するプロセスを早急に開始することを奨励します)。たとえ、内部監査部門長が2024年の監査計画の中で基準の改訂とそれに対応するための時間配分について取締役会や経営陣とすでに議論を始めていたとしても、そのほかに決定しなければならないことがいくつもあります。内部監査部門長はまず内部監査部門のビジョンを決定する必要がありますが、このビジョンは内部監査のステークホルダーのニーズと期待を考慮しなければなりません。取締役会や経営陣は強いこだわりを有しているかもしれませんので、内部監査部門長は、早めに取締役会や経営陣の意見を聞く必要があります。

多くの組織は、最終版が求める段階的な変更に到達するための課題にいまだ直面しています。本基準の適用により、内部監査部門長は、内部監査部門へのガバナンスを効果的に発揮する上で、関係者の協同の重要性とそれぞれの責任を明確化し力をこめて説く責任を負います。そして、各組織の内部監査部門長や取締役会、経営陣は基準への遵守の水準と、内部監査部門のより革新的な変化を支援するために基準を活用するかどうかを決定する必要があります。言うまでもなく、導入のアプローチは組織によって異なるでしょう。

ステークホルダーが知っておくべきことは何か?

ガバナンスの重要性に関する潮目が変わり続けています。COSO(Committee of Sponsoring Organizations トレッドウェイ委員会支援組織委員会)とNACD(National Association of Corporate Directors 全米取締役協会)が、COSOの内部統制フレームワークとERMフレームワークを補完するために、コーポレートガバナンスの枠組みの開発を進めているという事実は、この方向を指し示しています。本基準も同様であり、取締役会や経営陣、内部監査部門長に対し、内部監査部門に対する負託事項や期待を確立して明確にするだけでなく、いくつもの領域において、取締役会によるガバナンスと監視を確立するよう求めています。

下表は、通常は監査委員会が果たす取締役会に課せられた責任に関する主な変更点をまとめたものです。

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変革のための態勢をどう整えるか?

内部監査部門長は、新基準のどの改訂箇所を適用するか、適用までの期間、適用の厳格さ、手続きを決定する必要があります。審議会は、内部監査部門の規模、成熟度、組織内の位置づけが多様であることをふまえ、今回の改訂に 「Comply or Explain(遵守または理由の説明)」の概念を盛り込みました。内部監査部門長は、改訂された基準を理解し、適用に向けた作業に優先順位をつけるなど、内部監査部門を主導する必要があります。とは言うものの、まずはステークホルダーを教育し、協議し、適用に向けた計画の内容や範囲、時期について協同して決定する必要があります。

取締役会と経営陣、内部監査部門長の間で協同が求められる中、内部監査部門長は、取締役や経営陣とともに、基準の改訂箇所(その背後にある意図や内容、適用上の組織固有の考慮事項)を把握することが最も重要です。内部監査部門長は、内部監査部門が機能するための「テーブルステークス(必要最低限の要件)」として基準に定義されている「必須条件」について、取締役会や経営陣を教育しなければなりません。 

変革を成功させるためには、内部監査部門長はステークホルダーから意見を聞き、協同して取り組むガバナンスの概念に対する賛同を得るよう働きかけ、内部監査の活動に関する期待や価値の定義について明確に合意しておく必要があります。こうして態勢を整えることにより、内部監査部門長は、ステークホルダーに、基準が求めるさまざまな責任の当事者になってもらうよう仕向けることができます。この変革プロセスにおける内部監査部門長の目標は、改訂された基準に対する組織としての対応についてステークホルダー間の合意を促し、皆で合意に至った結論とアプローチを文書化することです。このような基本的な理解やステークホルダー間の賛同と当事者意識を確立しなければ、基準が求めるガバナンスの変革に向けて努力しても成功しないでしょう。

適用に向けたアプローチを設計する上で、ステークホルダーは何を考慮すべきか?

基本的な改訂への適合を超えて、内部監査への負託事項について明示された新たな要求事項は、内部監査部門の戦略や業績目標とともに、内部監査部門長や経営陣、取締役会間で合意される必要もあることから、組織内の内部監査の方向性と成熟度を明確化し前進させる機会を提供します。ステークホルダーは、今後3年から5年かけてどこまで進めたいかを決定し、内部監査部門の戦略的方向性を正式に明文化することが必要です。

内部監査部門の地位が向上しつつあるものの、多くの組織はまだ、内部監査部門の地位を確立し、取締役会に直接報告する途上で苦労しています。内部監査のスポンサーである経営陣や取締役会は、基準の要求へ完全に適合するのに必要な組織の規模について、はっきりした意見を述べる可能性があります。現状から基準の最終版を適用することは、短期的には難しいかもしれません。そのため、移行は時間をかけて段階的に進めることもできるでしょう。とはいえ、本題について話をした内部監査部門長や幹部の大半は、2025年以前もしくは2025年中に新基準に適合することを目指すと想定されます。

特に注目すべき領域の一つは、承認の正式な文書化をどの程度厳格化するかについて柔軟性をもたせる必要があることです。例えば、監査委員会は、議事録ほかの特定の媒体で正式に承認を文書化しなくても、内部監査部門の事項に関してマネジメントに助言し、支援することができます。承認の文書化のレベルには、おおいに柔軟性があるはずです。暗黙の承認すら可能な場合もあり、取締役会メンバーが議事録に何をとどめたいかによって異なります。特に、改訂された基準がチェックリスト方式やそのような考え方でとらえられることを避けるために、承認の方法には柔軟性が必要なのです。重要なことは、内部監査部門長は形式ではなく実質を追求すべきだということです。

なぜ今始めるのか?

基準の改訂によって求められる協同して取り組むガバナンスの仕組作りに向けて、ステークホルダーと積極的にコミュニケーションを図り、態勢を整えることで、不測の事態を回避し変更プロセスを円滑に進めることができます。建設的な話し合いの場を整え、新しい基準の内容や範囲、時期について合意できるようにすることが極めて重要です。

グローバル内部監査基準の改訂に関する詳細は、こちらのウェビナー(英語)にご登録ください。

(2024年4月8日)

英語版ブログ「Engaging Internal Audit Stakeholders to Build the Base for Adoption — Understanding the Global Internal Audit Standards (Part 1 of 3)」へのリンクはこちら

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