解説:グローバルスタンダードに近づく会計監査人による内部監査の評価と利用

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解説:グローバルスタンダードに近づく会計監査人による内部監査の評価と利用

経済活動のグローバル化に伴い、コーポレートガバナンスや内部統制の要請も国際化しています。会計基準も国際化が進み、近年はIFRSを採用する日本企業も増えています。会計基準と並んで、監査基準の国際化・共通化も進んでいます。国際監査基準(ISA)の設定主体は、国際会計士連盟(IFAC)の国際監査・保証基準審議会(IAASB)であり、世界各国での国際監査基準の適切な運用をめざしています。日本公認会計士協会の監査基準委員会では、上記IAASBにおいて検討された内部監査プロジェクト(2013年3月に改訂版のISA315 及びISA610 を公表)に対応すべく、関連する以下2つの監査基準委員会報告書の公開草案を2019年2月末に公表しています。
[意見募集期限 2019年3月26日]https://jicpa.or.jp/specialized_field/20190226rwc.html

● 監査基準委員会報告書610「内部監査の利用」
● 監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」

「監査基準」は監査実施者である監査法人・公認会計士側のルールですが、監査の当事者は財務諸表作成者である企業(被監査会社)ですので、その影響は企業にも及びます。これら監査基準の改正案では、内部監査がより重視され、内部監査に対する理解と利用においての評価要素が、グローバルスタンダード、つまりIIA基準(内部監査の専門職的実施の国際基準)の適用を推奨するものとなっています。いくつかそれを裏付けるポイントを見てみましょう。

● 内部監査機能の定義のアップデート(報告書610「内部監査の利用」以下、監基報610)

現行基準では、「内部監査機能」の定義を「企業に対して、確立され又は提供される評価活動をいう。当該機能には、内部統制の妥当性及び有効性を検討、評価及び監視することが含まれる。」となっています。改定案は「 企業のガバナンス、リスク管理及び内部統制の有効性を評価・改善するために、保証・助言活動を行う企業内部の機能をいう。」とされ、IIA基準と整合したものとなります。

● 会計監査人のリスク評価手続きに内部監査への質問を追加(監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」)(以下、監基報315)

現行監査基準では、会計監査人のリスク評価手続きには、「分析的手続」と「観察及び記録や文書の閲覧」に並んで、「経営者への質問」の手続を含めなければならないとされています。改正案では、経営者への質問へ加えて、「内部監査に従事する適切な者(内部監査機能がある場合)への質問」が明記され、以下の解説が新設されています。「内部監査人は、内部監査の実施を通じて、企業の事業運営や事業上のリスクに関する知識を有していることが多く、また、内部統制の不備等の指摘を行っていることがある。これらの情報は、(会計)監査人の企業の理解、(会計)監査人のリスク評価又は監査の他の局面において有益なことがある。したがって、(会計)監査人の質問は、実施する監査手続の種類若しくは時期を変更するか又は範囲を縮小するために、(会計)監査人が内部監査人の作業を利用するか否かにかかわらず、実施される。」
「特に、内部監査人から監査役等に報告された事項や、内部監査が実施したリスク評価プロセスの結果に関する事項についての質問は有益である。」との記載もあり、内部監査はそのリスク評価プロセスについて、会計監査人に説明することがますます重要になります。

● 内部監査人の作業を利用できる可能性の明記(監基報315)

現行監査基準では、「内部監査機能の責任及び活動の内容が財務報告に関連する場合、当該内部監査機能は監査に関連する可能性がある」とありますが、改定案では次のようにさらに踏み込んでいます。「 内部監査機能の責任や活動が企業の財務報告に関連する場合、(会計)監査人は、監査証拠の入手に当たり、(会計)監査人自らが実施する監査手続の種類若しくは時期を変更するか又は範囲を縮小するために、内部監査人の作業を利用できる場合がある。例えば、過去の監査やリスク評価手続により、企業規模と企業の事業内容に見合った適切な内部監査体制が整備されており、かつ内部監査人が監査役等に直接報告するように位置付けられていると考えられる場合、(会計)監査人は、当該企業の内部監査人の作業を利用できる可能性が高い。」内部監査人の作業を利用するかどうかは、監査の基本的な方針の策定において(会計)監査人が決定します。よって、この監基報は、内部監査人の作業の過度な又は不適切な利用を防ぐために、会計監査人の判断に関するフレームワークを提供するものであり、会計監査人に内部監査人の作業を利用することを要求するものではありません。しかし、会計監査の費用増加を企業側と協議するにあたり、検討する必須項目にはなると思われ、企業側も議論の準備をすべきでしょう。

● 内部監査人の作業を利用する場合の要件の明確化(監基報610)

改定案では「内部監査機能の評価」の項目が新設され、会計監査人は、以下の事項を評価した上で、内部監査人の作業が監査の目的に照らして利用できるかどうかを判断しなければならないとされています。

(1)内部監査機能の組織上の位置付け並びに関連する方針及び手続により確保されている、内部監査人の客観性の程度
(2)内部監査機能の能力の水準
(3)内部監査機能が、品質管理を含め、専門職としての規律ある姿勢と体系的な手法を適用しているかどうか。

会計監査人による内部監査人の客観性の評価に影響を及ぼす要因としては、いくつか示されていますが、「内部監査機能の組織上の位置付け (権限及び説明責任を含む。) により、内部監査機能がバイアス、利益相反又は他者からの不当な影響を回避して専門職としての判断を行えるような状況が確保されているかどうか。例えば、内部監査人は、取締役会、監査役等若しくは適切な権限を有する者に報告をしているかどうか、又は経営者に報告している場合、取締役会若しくは監査役等へ直接質問や面談することができるかどうか。」とあり、IIA基準で示されている独立性の要件と整合します。さらに、「内部監査人は、内部監査に関連する専門職団体の会員であり、その会員は専門職としての客観性に関連する基準に準拠することが義務付けられているかどうか、又は企業内部に客観性に関連する同様の規程があるかどうか。」ともあり、企業の内部監査にIIA基準の採用を後押しするものとなっています。
 
「内部監査機能が専門職としての規律ある姿勢と体系的な手法を適用しているかどうかの(会計)監査人の判断に影響する要因」としては、「リスク評価、内部監査手続書、内部監査調書の作成及び報告等に関する文書化されたガイダンスが適切に作成、保管、利用されているかどうか。」や「 内部監査機能に関して、適切な品質管理の方針及び手続が適用されているか。」が挙げられています。また、「適切な品質管理の方針及び手続には(一部省略)専門職団体が設定した内部監査人に関する基準において規定されている品質管理の要求事項がある。専門職団体の規定には、例えば定期的な外部の品質評価の実施に関する要求事項が含まれていることがある。」とIIA基準による外部品質評価の仕組みを、会計監査人による適切な品質管理の判断要素のひとつとして位置づけることにより、欧米での実務に近づくことが期待されます。

改定される監査基準は、2020年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用されます。ただし、2019年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から早期適用することができることになっており、会計監査人の内部監査に対しての質問や評価はこの4月からさらに増えることが予想されます。

監査委員会や監査役会は、内部監査人の客観性の程度及び内部監査機能の能力の水準をいままでも検討してきましたが、今後は会計監査人からの注目もさらに高まります。特に上場企業の経営者や内部監査責任者は、これらの監査基準で示される項目を考慮し、会計監査人からの信頼を高める必要があります。まだ、取り組まれていない場合は、外部品質評価、リスク評価プロセスの整備、ITツールを活用した体系的な内部監査手続、内部監査調書の作成及び報告等を、今後の内部監査の中期計画・年度計画において検討されることをお勧めします。

(特集記事:メールマガジン2019年3月号)

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